(25)アニメ「この世界の片隅に」をご覧になりましたか？(2017-11)

2016年の11月ごろから、あるアニメ映画が公開されました。

そのタイトルは、ちょっと地味な感じの「この世界の片隅に」というものです。


太平洋戦争末期の広島・呉を舞台にした、一人の若い女性を中心とした庶民の日常を淡々と綴ったアニメ映画です。 

戦前は広島(陸軍)も呉(海軍)も重要な軍事拠点で、二つの市は国鉄の「呉線」でつながっていました。また二つの市の間の広島湾に、海軍兵学校のあった「江田島」もあります(2016年版の地図をご覧ください)。 

このような訳で、戦争中は呉・広島は何度も「空襲」を受けていました。そのような戦時下、昭和19年に18歳で広島から呉に嫁いだ女性「すず」や庶民がいろいろと苦労しながら、前向きに一生懸命生きていく様を描いているアニメ映画です。 

同名の原作漫画は広島出身の「こうの史代」さんの著作で、2008年初版以来2016年末頃までに20版近く発行されたベストセラーになっています。 

主人公の「すず」は広島市の西部で生れ、幼少のころから「似島(にのしま)の安芸小富士」と「宮島」を眺めながら育ちました。 

呉線の列車に乗って広島から呉へ移動する過程は、原作漫画には詳しくは書かれていませんが、映画にはかなり詳しく描かれています。 

アニメでは、広島で「すず」さんが見ていた「二つの島」が、呉に近づく列車の中から小さく見える場面が取り入れられています(写真：下)。

実際にこれ以降は「宮島」が見えなくなり、さらに「似島」も見えなくなってきます。監督さんは、郷里の広島を離れる「すず」さんの心情：不安や寂しさを表現したかったのではと、勝手に解釈しています。 

私は戦前(1941年：昭和16年)の生まれで、当時は呉市に隣接する大屋村(昭和31年呉市に合併し、天応(てんのう)町となる)に住んでいました。この場面は大屋村と広島側の隣町との境付近から見ることが出来るのです。

現在では呉市と隣町(坂町)との境になりますが、ほぼ同じ所から2016年5月に撮った風景を紹介します。一緒に写っているのは2015年から呉線に投入された最新鋭の電車：レッドウィングです：(21)「にわか撮り鉄」になりましたをご覧ください。

天応の山(天狗城山：標高293m)から眺めた風景もご覧ください。 

呉市中心部からは山陰になり広島を見ることはできませんが、私の育った村の海岸近くから広島湾の奥に広島の沿岸部が見えるのです。

もう一つの山(烏帽子岩山：標高400m)から、2006年に撮った写真を見ていただくと良くわかると思います。  

このアニメは声高々に反戦を訴えるのではなく、小市民の苦労や悲しみを通して「戦争の悪やむなしさ」を淡々と描写しています。

そのため観る人に、ボディーブローのように「平和の大切さ」が伝わっていくように感じました。 

映画の最後に制作スタッフやクラウドファンディングで資金を援助した人たちの名前が数分間にわたって写されました。

普通の映画であれば、多くの観客が席を立ちますが、このアニメを見たときには誰一人として退室する人はいませんでした。

完全に映写が終了し、明かりがつくまで皆感動の余韻に浸っていたように思います。 

このアニメには「原爆」(当時は「ピカドン」と言われていました)についても、原爆投下前の「産業奨励館」と被爆後の姿が描かれています。
 

2010年5月に撮った「原爆ドーム」もご覧ください。「世界遺産」に登録され、周辺は「平和公園」としてきれいに整備されており、戦後70年も過ぎると原爆や戦争の悲惨さを忘れてしまうほどです。 

今回「この世界の片隅に」を見て、現在の私共が戦争と無縁の平和の下で自由に生きていることのありがたさを痛感しました。

昭和20年8月6日8時15分の原爆投下の際の閃光と、巨大なキノコ雲を自分の目で見た私でさえ、今まではこの平和が当然のように続くという安易な気持になっていました。 

しかし、最近は至る所でいさかいが起こり、再び「戦争」が起こらないとは言えない世の中になっているように感じます。